笑いたいならこれでいいでしょ『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』


良書に出会ってしまうと書評自体が蛇足に思えてしまう。もう書評読む暇があったらすぐに買って読んでくれ、と思わず言いたくなってしまう。はっきり言ってしまうと面白い以上に評することが難しいのである。そういう訳で、今回の書評はほとんど引用である汗。この一冊のほんの一部であるがぜひ楽しんでもらいたい。

絶海の無人島での過酷な調査の合間でのベースキャンプで繰り広げられる、つかの間にひと時に見せる調査隊一行の人間模様など、まさに抱腹絶倒だ。

"常連の色黒調査隊長は、昼も夜もサングラスだ。海辺に用足しに行き大波をかぶり、波間に潜む人魚にネガネを献上したのだ。予備のメガネはサングラスしかなく、夜は暗い暗いと嘆いている。彼は植物学者だが、ヤシガニを見つけてテンションが上がり、実は動物学者になりたかったと無用なカミングアウトを始める。

その隣では、小柄なカタツムリ研究者が海に鋭い視線を向けている。新種4種と引き換えに、やはり大事なメガネを山の神に奉納したため、眼を細めないとよく見えないらしい。視線の先の波打ち際では、水棲動物学者が記録映像を撮っている。落石対策のヘルメットを着用しているのは立派だが、首から下はトランクス1枚だ。彼は一体何を守っているのだろう。"

研究者の硬いイメージがなくなって、ちょっと残念な調査隊に見えてしまう。ほかにも語り口調のせいか一瞬素通りしてしまうようなネタも多い。

"私の知る限り、動物は足が多いほど不愉快感が増し、少ないほど美しい。ムカデは100本、クモは8本、ゴキブリは6本、ドブネズミは4本、鳥類と美の女神アフロディーテは2本。どう考えても鳥類と女神が美しい。"

鳥類贔屓がすごい!確かに、そやなって一瞬思わされてしまうとこが恐ろしい。

野生動物に回転運動が採用されなかった理由を一節まるごとぶち抜きで考え出したり、チョコボールキョロちゃんの考察に8ページもの分量を割いたりしている。はじまりからおわりにまで終始ボケ倒す、それが川上和人のサイエンス・ノンフィクションである。是非読んでもらいたい。